【5】相続税の有利な申告 ~申告方法で相続額は異なります~
相続税は1つの申告について10人が作成すれば10人とも、100人が作成すれば100人とも違う税額が算出される申告書が作成されると思われます。
所得税や法人税などはその所得を得た方が自分の事や自社のことで有る為、その内容をよくご存知で有る事から漏れや間違いは殆ど出てこないものです。
しかし、相続税の場合には遺産を残された方は既に他界され、相続人がその全てを理解されていない場合が多く存在します。
そのため、相続財産の把握、財産の評価、遺産分割の方法、相続税の申告書の作成方法により何百万も相続税額が変わることも稀ではありません。
(1)遺産分割協議の不成立によるデメリット
遺産分割協議は相続人の承継する財産や債務を確定し、後の紛争等を起こさないためにも早期に成立させる事が重要です。
協議が成立しないまま5年・10年と過ぎ精神的に疲れてしまったり、本来必要で無かった裁判等の費用を負担しているケースも少なくありません。
相続税の申告にあっては、遺産分割が成立している事により適用が受けられる規定もあるため遺産分割を申告期限までに成立させる事をお勧めします。
法律的に遺産分割協議の期限はありません。
相続開始時(死亡の日)から相続人が相続分により共有状態で取得しているからです。
1.小規模宅地の減額
被相続人などが居住していた宅地や事業をしていた宅地等は一定の減額があります。
| 宅地の種類 | 要件 | 減額限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|---|
| 事業用宅地 | 申告期限まで保有している一定の者が事業を継続している | 400平方メートル | 80% |
| 賃貸物件の宅地 | 200平方メートル | 50% | |
| その他の事業用宅地 | 200平方メートル | 50% | |
| 居住用宅地 | 配偶者が取得 | 240平方メートル | 80% |
| 申告期限まで保有している一定の者が居住を継続している | 240平方メートル | 80% | |
| その他の居住用宅地 | 200平方メートル | 50% |
注意事項
- 上記内容はこの規定を簡略して記載しています。
- この規定を適用して「相続税の課税価格が相続税の基礎控除額」以下になったとしても相続税の申告は必要です。(相続税の申告が要件)
- 減額金額が大きくなるからといって、最終的な納税額が少なくなるとは限りません。また、減額限度面積や減額割合については様々な要件や注意点が有る為必ず専門家に相談して下さい。
2.配偶者の税額軽減
配偶者が取得した財産に係る相続税は一定金額まで減額されます。※ 正式な婚姻関係が成立していれば婚姻期間・放棄手続など関係ありません。
減額される金額
次の金額のうち、いずれか多い金額までは相続税は掛かりません。
- 1億6千万円(配偶者の取得した財産が少ない場合は実際の取得した金額)
- 課税価格の合計額 x 配偶者の法定相続分
注意事項
- この規定を適用して「配偶者の相続税の税額」が「0円」になったとしても相続税の申告は必要です。(相続税の申告が要件)
- 配偶者の税額軽減が大きくなる様な遺産分割をしたことによって、将来二次相続が生じた時に、税額合計(一時相続と二次相続の税額合計)が最終的に多くなることがあります。必ず専門家に相談して下さい。
3.同族会社の株式評価
同族会社の株式評価には、原則評価と簡便評価があり、社長及び親族の相続については一般的には原則評価が適用され、その評価も高額になります。上場会社の株式と異なり、市場での売却が不可能で有る事から納税に困ることとなります。
(イ)取引相場のない株式の減額
減額される金額
次の金額のうち最も少ない金額 x 10%
- 相続財産となる株式の価額
- 同族会社の株式の総額 x 2/3
- 10億円
要件
減額される金額
次の金額のうち最も少ない金額 x 10%
- 発行済株式等の総額が20億円未満
- 同族関係者の持株割合50%超
- 申告期限まで株式を保有・その親族(相続開始時の持株割合が5%以上)が役員として会社に従事
注意事項
- この規定を適用して「相続税の課税価格が相続税の基礎控除額」以下になったとしても相続税の申告は必要です。(相続税の申告が要件)
- 減額金額が大きくなるからといって、最終的な納税額が少なくなるとは限りません。また、様々な要件や注意点が有る為必ず専門家に相談して下さい。
(ロ)取引相場のない株式の評価
評価額の算定の基礎となる株主の判定は、相続により取得した後の株式保有割合で行います。分割協議が成立していない株式はその株式全てを各相続人が一旦全てを取得したものと考えて判定を行うため、簡便評価でできる方でも原則評価が適用される場合があります。
4.農地等の納税猶予
農地については農業相続人が継続して農業経営を継続していく場合、かなり低額の相続税で申告・納付する事ができます。分割協議が成立していない場合には納税猶予は受けられません。
注意事項
- この規定を適用して「相続税の税額」が「0円」となったとしても相続税の申告は必要です。(相続税の申告が要件)
- この規定は納税額を猶予しているだけであり完全な免除されているわけではありません。将来の計画も十分に考慮に入れて選択して下さい。
- 農業委員会の証明などで手続的に時間が掛かります。手続は早急に行って下さい。
5.物納財産として不適格
分割協議が成立していない財産は相続人の共有となり、所有権が確定していないため物納財産として不適格とされます。その為、原則として物納ができません。
(2)適正評価
財産の評価は時価で行います。よって、路線価等から土地の評価方式などを定めている財産評価基本通達は税務申告の便宜上のものです。
しかし、この財産評価通達にも財産の価額についての全ての事情は考慮すべきことは記載されています。
一般的に財産評価通達通りに評価を行い、相続税の申告をする事となりますが、必ずしも評価通達通りに評価し、申告することが認められているわけでもありません。
つまり、財産評価通達通りに評価することが不合理と考えられる場合には、否認される可能性も有る事も十分に理解しておく必要があります。
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土地
評価通達上は、整形地(正方形又は長方形)を前提に規定されています。従って、少しでも歪んでいる土地や角が欠けている土地などは全て不整形地です。
つまり、日本の土地の殆ど全てが不整形地であるといえます。
また、形状の他にも様々な事情が個々に存在する事が有る為、必ず全ての土地について現地を確認し、補正要因を検討する必要があることに注意して下さい。
鑑定に基づく申告は、上記内容を検討した後で十分であり、鑑定評価も完全ではありません。(鑑定方法にも注意が必要です。)
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取引相場のない株式
株式の評価方法は一般に複雑と言われます。その評価対象の会社に不動産や子会社・孫会社・持合株式等の株式を所有している場合には、先ず、不動産などの財産を評価する必要があります。
つまり、土地の評価が適切でなければそこで評価額を誤る事となります。
また、社長個人と会社との不動産の賃貸関係についても借地権が存在するかどうか等の判断に困る事も多数存在します。
その他、評価額算定上で、選択して適用するものもあり、その有利選択を誤れば評価額は当然高額となる事もあります。
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名義借り
相続税の調査で指摘される項目の最たるものが、名義借りとなっているもので、その大半は預貯金関係です。
子供や孫などに名義が代わっているからといって相続財産から除外しているケースがありますが、後に税務調査で指摘される前に当初の申告から十分にその預貯金の存在する経緯等を検討する必要があります。
税務調査で指摘され、修正申告を行う場合にはその財産に対する税額のみではなく、加算税や延滞税等が加算され、結局多く納税する必要が生じます。
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平等な遺産分割
遺産分割で、「兄弟姉妹仲良く」という事で遺産を相続分通りに分けている場合があります。確かに相続人全員が法律通りに分けるのが一番揉めない事となるでしょうが、相続分などでの共有は後々困る事となる財産もあるので注意して下さい。
分割できる財産が無い場合には、代償分割(土地などを1人の相続人が取得し、その代わり現金等を他の相続人に渡す方法)などで極力共有は避けるべきです。
(3)遺産分割
相続税の申告は被相続人の残した「財産」と「債務」などから相続税を計算するため、全体の財産の評価額が同一であれば同額の相続税額が基本的には生じる事となります。
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評価額が異なる
財産の評価については「各相続人等が取得した財産ごとに評価する」ことと規定されているため、相続税が少なくなる様な遺産分割を行うことにより相当の相続税を節約することができるケースもあります。
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敢えて共有財産
財産の共有は一見平等に分けている様ですが基本的にはお勧めできません。
しかし、目的を持って敢えて共有状態にすることがあります。例えば分割する適当な財産が無く、代償分割をするための資金も無い、その為財産を譲渡してその譲渡したお金で平等に分けることにより円満に遺産分割が完了することがあります。
共有状態にしていなかった事や換価分割を定めていなかったことにより贈与税が課される事があるため、十分検討の上、遺産分割を進めて下さい。
(4)相続申告後の対策
相続税の申告後においても様々な計画をし、実行していく必要が生じることもあります。
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相続財産の譲渡
相続財産を譲渡した場合、その譲渡した相続人に対し所得税等が課されてきます。
この場合、相続の申告から3年以内に行われたものである場合には、所得税の計算上、相続税が控除される規定があるため、譲渡を検討されている方は、この規定を有効に活用することをお勧めします。
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二次相続対策
一次相続(今回の相続)が終了すると、二次相続(今後の相続)についても検討や対策を講じていく必要があります。
多くの場合、今回の相続で配偶者が遺産の多くを取得し、配偶者の税額軽減で税額が少額(又は0)で完結している場合が多いのですが、今度その配偶者に対し相続が発生した場合にはこの規定はありません。
贈与や様々な対策を行い、二次相続に備えておく必要があります。
(5)注意事項
相続税の申告書は、相続人の協力を得ながら故人の生活状況や預金通帳その他の資料を収集し財産を確定させるため、把握された内容に不一致が生じる事があります。
例えば、他人名義の預金・有価証券・不動産等を相続財産とすべきかどうかなどその判断に苦慮するところです。
他にも、相続財産(特に土地等)の価額は評価方法により金額が異なります。
相続税の申告では、
調査で指摘されないように「被相続人の財産を漏らさず計上」し、
余分な税金を払わないための「財産の適正な評価」を行い、
将来の相続人の「生活プラン等を考慮した遺産分割」をする
これらの事が全て行われる事が最も有利な申告と言えると思います。
相続税対策のご依頼を頂くと、「過去の申告書の確認」「現状の把握(財産の評価など)」「相続税の試算」等を行い、提案内容を提示し、ご相談しながら対策を講じています。



